大分市にあるA邸にて、玄関の照明器具を新しくしたいというご相談をいただいた。7年前、玄関ホールの改装でシューズクローゼットを新調した。その際、天井まで壁をつくることで高所の掃除を無くしたため照明配線の位置は中心から少しだけずれているように見える。今回、壁紙はきれいなので貼り替えはしない。その“ずれ”を無理に矯正せず、与えられた位置のまま、美しく活かす方向で提案することにした。今回選んだのは、透明なガラスの小さなペンダント。天井へのシーリングカバーもガラス製で、さりげなく上品だ。滴る水のかたちのように、柔らかい光が層になりながら空間へ広がっていく。このあとA邸に導入される全館浄水の、「澄んだ水」とどこか響き合う光だった。そして奥のニッチには、留学中のお嬢さんが旅先の絵画展で、ご家族のために選んで購入してくれた一枚の絵。リビングの一角にかけられてたのだが、玄関ホールへ提案。細長く使いづらいスペースだったはずのニッチが、その絵が掛けられた瞬間、照明の光と呼応し、“息をする場所”へと変わった。玄関に飾られたその絵は、遠い街で成長したお嬢さんからの“贈り物の物語”を、家に帰るたびにそっと思い出させてくれる。透明な照明のきらめきが加わることで、その物語が静かに照らされ、より温かく浮かび上がっていく。トム・ディクソンの箱を開けると、照明器具は柔らかい布でやさしく守られ、ガラスを扱うためなのか、白い手袋まで添えられていた。パッケージのセンスや丁寧な配慮に触れられることは、この仕事の大きな学びであり、よろこびのひとつだ。ペンダント照明は、扉の開閉に支障が出ない、最も美しく見える位置にコードの長さを決めた。元の器具配線の跡が隠れること、そして設置位置の微妙な調整ができるよう、シーリングカバーの寸法もあらかじめ考慮している。選ぶ基準は、印象や価格だけではない。空間や暮らしとの“呼吸”まで含めて整えることが、コーディネーターの役割だと感じている。今後のメンテナンスに備え、同梱されていた布手袋を使ってガラスシェードを軽く磨いてもらった。暮らしの中で触れる時間が生まれることで、照明は“選んだもの”から“馴染んでいくもの”へと変わっていく。暮らしに取り入れるものは、美しさと同じくらい、“触れられること”が大切だと思う。透明な光。澄んでいく水。そして、遠くの街から届いた一枚の絵。A邸の玄関は、それらが静かに重なっていく“はじまりの場”となっている。光が整うと、家全体の空気も、そこで生まれる物語の深さも、清らかさを増していく。