子供室を出て、階段を降りる。あるいは、上る。家の中には、部屋と部屋をつなぐ「あいだ」の場所がある。それが、ホールだ。ここは、何かをするための場所ではない。だからこそ、もっとも純粋に「空間」そのものを味わうことができる。その一角に、小さな彫刻を置いた。美術ユニット・オレクトロニカによる作品。直立する人のかたちをしたそれは、言葉を持たない詩人のようだ。彼は、ただ、そこに立っている。けれど、その存在ひとつで、何でもなかった棚が、物語の舞台に変わる。壁の余白は、意味を帯びた沈黙へと姿を変える。「空間」とは、壁や床で囲まれた容積のことではない。そこに置かれたものと、それを見る人の心のあいだに生まれる“気づき”のことなのだと、この小さな木像は、静かに教えてくれる。視線を上げれば、吹き抜けの壁に掛かる大きなキャンバスがある。特注サイズで制作した、デジタルアート作品だ。抽象的な色面は、見る人の心の天気によって、夜明けの海にも、雨上がりの空にも見える。足元には、静止する彫刻。頭上には、流動する色彩。「静」と「動」。「個」と「全体」。ホールを行き交うたび、私たちは無意識のうちに、この二つのあいだを通り抜けている。ホールに隣接するミーティングスペースもまた、同じ思想で整えた場所だ。話すためだけでなく、考えをほどき、共有し、ときに沈黙を許すための余白。ここでは、言葉もまた空間の一部として扱われる。家の中にアートを置くこと。それは、暮らしという文章の中に、美しい読点を打つことに似ている。立ち止まるための場所があるからこそ、私たちはまた、次の部屋へと、静かに進めるのだ。