福岡市のクラフトの店「梅屋」さんへ。庭の梅は満開。二年前に訪れた時と同じように、ふくいくたる香りが迎えてくれた。今日は、高知の布作家・早川ユミさんの「ちくちくワークショップ」。みんなで輪になり、私もユミさんの隣に座って、針と糸を手にする。作るものは、台所でも畑でも大活躍する「農婦エプロン」。軽やかな藍の麻布に、針を通していく。「ちょっこり、ぐしぐし縫って」ユミさんの口からこぼれる、その愛らしいオノマトペ。まっすぐに、きれいに縫いたい……と力んでいた肩から、ふっと力が抜けていく。不揃いでもいい。不揃いがいい。土を耕すように、ぐしぐしと。その縫い目は、いつしか自分だけの景色になっていく。ユミさんが言う。衣食住というけれど、衣がいちばん最初にある。衣服は、医療の一部でもあり、自分自身を守る「手当て」のようなもの。素材や肌ざわり、つくられ方によって、服は私たちのからだを整えてくれる存在にもなる。料理と同じように、素材が自然で、どんな手を通して生まれたものかによって、心とからだへの影響も変わってくるのだと思う。うたをうたうようにごはんをつくるようにいちまいの絵を描くようにじぶんの着る服をつくろう(『ちくちく服つくり』より)手を動かしながら、参加者の方々の声が重なる。「手縫いのゼッケンをつけると、力が湧くと孫が言うんです」「自分で漬けた梅干しを食べると、自分自身が励まされる気がして」そして、会のなかでユミさんが手渡してくれた一枚の紙がある。「たまもるしんぶん」。それは、「田んぼと森をまもる会」からの便り。現在進められている風車計画に対し、心配していること、守りたい風景のことが綴られていた。「この地球で暮らし続ける私たちにとって、何が一番大切なのか」その問いかけを受け取ったとき、ふと、ここへ来る道中の景色が蘇った。高速道路から見えた山肌。かつて緑豊かだった森が伐採され、黒々とした大規模なソーラーパネルで埋め尽くされている光景。「再生可能エネルギー」という名目のもと、動植物の犠牲の上に成り立つ開発に、言葉にし難い違和感を感じずにはいられなかった。服のほころびを繕うように。私たちは今、この地球との関係性を、もう一度丁寧に繕い直さなければならない時期に来ているのかもしれない。ユミさんが言う「種まき」とは、服を作ることだけではない。こうして現状を知り、違和感から目を逸らさずに「考える」こともまた、未来への大切な種まきなのだと思う。美しいエプロンを縫いながら、心の中では静かに、森の緑を想っていた。ちょっこり、ぐしぐし。服はくすり。そして森もまた、私たちを生かしてくれる、大きな恵みなのだと思う。