キッチンに、小麦とバターの香りが戻ってきた。以前、バターを折り込む手間の尊さを知ったその手が、この週末、もう一度生地に向き合っている。二度目の挑戦。今回は、層の間に小さな楽しみを忍ばせる。パン・オ・ショコラ。生地を三角形や長方形に切り分ける手つきには、前回よりも、ほんの少し迷いがない。冷たいバターを溶かさないように、素早く、けれど丁寧に。チョコレートを芯にして、くるくると巻いていく。それはまるで、誰かへの贈りものを包むような、やさしい手仕事だった。オーブンに入れる前、ドリュール(艶出し卵)を塗られた生地たちが、静かに並ぶ。これから熱を受け、ふくらむ未来を待っている。やがて、部屋いっぱいに広がる香り。焦げたバターの香ばしさに、今日は、カカオの甘い気配が重なる。焼き上がったパンは、黄金色の層をまとい、初回よりも、確かに美しく重なっていた。サクッとかじると、バターの塩気の奥から、とろりとチョコが顔を出す。繰り返し作ることでしか、見えない景色がある。二度目の味は、甘く、ほろ苦く、少しだけ自信の重なった味がした。それぞれが、自分のリズムで日々を重ねる。目には見えない時間も、きっとその人の中で、層のように重なっていくのだろう。クロワッサンのように。ひとつひとつの重なりが、やがて、その人だけのかたちになっていく。