別府市T邸のお引き渡しも無事に終え、すべてへの感謝と、新しい門出への喜びを形にしたいと思い、大安の佳き日のしめくくりに味噌を仕込むことにした。「大安(たいあん)味噌」と名付け、昨年の倍の量を仕込む、エネルギーに満ちた手仕事の時間となった。倉庫から大鍋を出し、二十四時間浸水させた大豆をじっくりと茹で上げる。ざるに上げた瞬間の、黄金色に輝く大豆の山。この素材の力強さが、数ヶ月後には家族の身体を守る「命の薬」へと変わっていく。無農薬の玄米麹と麦麹、ミネラルたっぷりの天然塩。そこへ漆黒の「麻炭」を少し混ぜ合わせる。丁寧な「塩切り」の工程は、建築で言えば基礎を整えるようなものだ。素材同士が対話し、ひとつに馴染んでいく様子を五感で確かめる。人肌の温かさのなか、大豆と麹を練り上げる。今年は息子の手も加わり、躍動感のある時間が流れた。手に伝わる抵抗や重み。その感触ひとつひとつが、便利さと引き換えに忘れかけていた大切な「何か」を、呼び覚ましてくれる。健やかな素材でつくる味噌や梅干しは、体内が最も歓迎する、頼もしいお仲間たちだと私は信じている。それは、自らの手で「安心」を形にするという、何より贅沢な養生。使い終えた道具を清めるその瞬間、台所には静かな達成感が満ちていた。仕上げに、蓋へ「美味しい 大安味噌」と祈りを込める。これから静寂のなかで、菌たちのタクトによってゆっくりと発酵が始まる。美味しくなるという確信とともに、時の流れに委ねる贅沢。次にこの蓋を開けるとき、お引き渡しを終えたあの住まいも、そして私たち家族も、どんな風に成長しているだろうか。秋の訪れが、今から待ち遠しい。