宿泊空間のコーディネートというと、家具や照明、景色の良い写真を思い浮かべることが多いかもしれない。けれど実際は、その手前にある“段取り”の仕事がとても大きい。無数にある備品や消耗品を選び、まだ無人の現地へ配送を手配する。搬入日の天気を確認し、雨かもしれない時は、搬入方法まで含めて細やかに調整する。「四方善し」この考え方を学んで以来、四方八方に配慮することを、大事にするようになった。施工の日程を組み、地図に載らない場所には案内図をつくって送る。日時指定のできない荷物でも、事前に配送会社へ連絡を入れ、現地事情を説明し、日時の相談をしておく。発注した数が足りなければ、別の仕入先を探して数を揃える。在庫切れや廃盤、納期遅延。思い通りに進まないことは、実はとても多い。だからこそ、代替案を考えたり、全体とのバランスを再調整したり。そうした“見えない段取り”が、空間を静かに支えている。そして、あらためて思う。空間そのものの心地よさは、そこを支えている気の利いたデザインのひとつひとつの集まりによるもの。「あなたを大切に迎えています」そんなメッセージが、自然と伝わる場所。食器のかたち。箸の素材。家電のフォルム。バスタオルを掛けてもらう工夫。肌触りや厚み、たたみ方まで。そんな細かな想定の積み重ねが、滞在中の“なんだか心地いい”をつくっていく。歯ブラシなど一度限りのアイテムほど、これは、というものにする。ゲストとしての経験が役に立つ。高価でなくとも、自然にすてきで使いやすいこと。気を張らずに過ごせること。説明されなくても、身体が安心していくこと。空間を整える仕事は、そういう小さな感覚を、ひとつずつ設計していく作業です。山頂までは、地味にきつい。けれど、一歩一歩積み重ねて辿り着いた先からの景色は、ただただ清々しい。