扉を開けた瞬間、空気の密度のようなものに触れることがあります。目に見えるものだけではない、その場に満ちている気配のようなもの。この社長室のコーディネートは、大分市で、6年前の春に手がけたものです。企業の舵取りを担う方が過ごす場所は、思考が整い、次の一手が生まれていく場でもあります。だからこそ、余計なざわめきのない、澄んだ静けさが似合うと感じています。その方は、祀られた神棚への向き合い方がとても美しく、場の「氣」のようなものを、すっと受け取る感覚を持たれていました。その佇まいが、今も印象に残っています。その感覚に触れながら、空間としても、使う方にふさわしいあり方を思い描いていきました。この空間では、「集中」と「休息」という二つの時間が、無理なく行き来できるように整えています。デスクと呼応するように設えた特注のパーテーションは、空間を区切る役割にとどまらず、思考が散らばりすぎないように、そして身体がほどける時間も守れるように、そのあわいをやわらかくつないでいます。木の温もりと、すっと通る直線の気配。デスクに向かうときのほどよい緊張と、身体を預けたときのゆるみが、自然と同じ空間の中で共存していきます。デスクの上に置かれるものたちも、この空間の一部です。ペン立てやファイルケースといった日々の道具ほど、その佇まいが思考の流れに影響していきます。整っていること、手に取りやすいこと。それだけで、情報は自然と収まり、次の判断へとつながっていく。小さな道具たちが、その流れを静かに支えていました。そして、長く身体を預ける椅子。オカムラ コンテッサ セコンド II を選定しています。身体の軸が整うことで、余計な違和感が消えていく。そのぶんだけ、意識は内側へと向かいやすくなります。座り心地のよさは、思考の深さにもつながっていくように感じました。外側の空間が整うと、内側も自然と整っていきます。余白が生まれることで、新しい考えが入り込む余地ができる。室内と体内が、どこか似たかたちで響き合いながら、静かに巡っていくような感覚。細部まで意図をもって整えたこの場所で、空間と向き合うことが、どれほど確かな力になるのか。あれから年月が重なる中でも、この会社は業績ともに運気の流れも伸びやかに続いていると伺っています。あの春に整えた空間が、今も静かにその土台を支え続けている。そんなことを、思い返しています。