冬至の夜。陰が極まり、ふたたび光が戻ってくるこの日に、新しい手帳の封を切ることにした。パースブルー。かつて見た空の色を纏(まと)った、ロイヒトトゥルム。ビニールを剥がすと、指先に吸い付くようなマットな感触が伝わってくる。それは、まだ誰のものでもない、静かな海原のようだ。表紙をめくり、ペンを握る。最初の一文字を記すときは、いつも儀式のように緊張する。私が選んだのは、罫線でも無地でもなく、ドット(点)の方眼。遠目に見れば白紙のようで、近づけば微かなガイドがある。「枠」がないということは、自由であると同時に、自分自身で道を選ばなくてはならない、ということだ。思考を、型にはめたくない。けれど、迷子にはなりたくない。そんなわがままを、この無数の点が許してくれる気がする。ドイツ語で記された帯には、「Denken mit der Hand(手で考える)」という言葉。頭で組み上げるよりも先に、手を動かすこと。インクが紙に染み込む速度で、おぼろげな思考を、確かな輪郭に変えていくこと。書き損じてもいい。迷い線も、余白も、すべては今日という日の痕跡だ。深呼吸をひとつ。冬至の静けさの中で、青い海へ、ペンという船を漕ぎ出す。