今日は芒種。稲や麦など、穂の出る植物の種をまく頃とされる節気だ。昨日の雨から梅雨入りとなり、庭の緑もどこか生き生きとして見える。空気には湿り気を感じるけれど、この涼しさはかなりうれしい。草木は雨を受け取り、またひとつ成長していく季節。そんな庭で、ふと足元を見ると、どくだみの花が四つ並んで咲いていた。白く小さな花。その姿を見ているうちに、昔の暮らしを思い出した。この家は、かつて四人家族が暮らしていた。遠い記憶の中では、お風呂は薪で焚いていた。タイルでできた浴槽のお湯は、下のほうからじわりじわりと温まってくる。外では親が薪をくべながら、「湯かげんはどう?」と声をかける。私は、「いいよ」「もう少し」などと答える。今思えば、お風呂はスイッチひとつではなかった。火を見て、湯を見て、人の声を聞きながら入るお風呂。手間のかかる暮らしだったと思う。けれど、その手間の中には、家族の会話があり、気遣いがあり、ぬくもりがあった。あれは、とても贅沢な時間だったのだと、今ならわかる。暮らしは変化する。薪はボタンになり、電話は画面になり、質問はAIに尋ねる。家族の形も少しずつ変わっていく。便利になったものは多い。けれど、あの頃の暮らしの中には、今とは違う豊かさがあったように思う。四つ並んだどくだみの花を見ながら、そんなことを思った。今日は芒種。種を蒔く季節。受け継がれてきたものもまた、見えない種のように、今の暮らしの中で芽吹いているのかもしれない。