ふと、十年前の仕事を思い返す。アルバムのページをめくるような、懐かしい記憶。あのご家族は今、どんな時間を過ごしているだろうか。当時、新築のコーディネートで大切にしたのは、住まいの中に「静と動」のリズムをつくること。リビングの主役となるテレビボード。その背面の壁には、あえて濃い色、深いチャコールグレーを選んだ。大きな黒い画面が、その闇に溶け込むように。スイッチを入れれば映画館のような没入感を、消せば静寂を。機能美を、色の深さで表現したかった。一方で、プライベートな場所には、住む人の「源(みなもと)」となる色を忍ばせた。ご主人は、世界を舞台に戦うプロのスポーツ選手。海外遠征の合間という限られた時間の中、ご主人の考えに、直接触れる機会があった。その時の印象は、今も鮮明に残っている。プロのアスリートとは、こうも思考が澄んでいるものかと。こちらの提案に対し、打てば響くような判断のスピード。迷いがない。けれど、その即決の中には、切り捨てる冷たさではなく、家族への深く温かな配慮が常に満ちていた。研ぎ澄まされた直感と、優しい理性。神経回路が透き通っているかのようなその立ち振る舞いに、私は美しい「人格」を見た気がした。そんな彼だからこそ、休息の場には特別な色が必要だったのだと思う。寝室のクローゼットに忍ばせた、ラッキーカラーのオレンジ。専門色で言えば、生命力に溢れた 「ヴァーミリオン(Vermilion)」。明日への活力を養う太陽のようなその色は、勝負の世界で戦う彼の、見えない「守り石」になったはずだ。そして、もう一つ。キッチンカウンターの下、家族の中心にある特等席には「世界地図」を。「パパは今、ここだよ」まだ小さかったお子さんが、小さな指先で地図をなぞる姿が目に浮かぶ。物理的な距離を、心の距離に変える魔法の壁紙。静かな影と、熱い太陽の色と、家族を繋ぐ地図。十年の時を経て、あの小さな指先は、もう随分と高いところまで届くようになっているだろう。家とは、家族の歴史と、そのひたむきな想いを静かに包み込む、美しい背景(バックグラウンド)なのだと思う。大分市でオーダーカーテンとインテリアコーディネートをご提案しているアルティマ工房です。暮らしを整える住環境づくりを通して、心地よい住まいづくりをお手伝いしています。別府市など近隣エリアにも対応しています。