モデルルームにおけるインテリアの演出とは、単に家具を美しく並べることではない。そこに住まう人の呼吸や、体温のようなものを、そっと忍ばせることだ。例えば、この書斎。主は、つい先ほどまでここに座っていたに違いない。少し斜めを向いた椅子。走り書きのメモと、無造作に置かれたペン。新しいアイデアが閃いた直後の、微かな興奮の痕跡が、まだ残っている。空間に漂うのは、思考の余韻。その動的な気配の中で、一つだけ、静かに錨を下ろすものがある。黒猫のマグネットでとめられた、一枚の紙片。「老後はない」それは装飾ではなく、この部屋の主にとっての心の指針だ。迷いや不安という霧を払い、目の前の道を照らす、灯台のような言葉。この言葉が壁にあるだけで、植物も、棚に並ぶ本も、過去を懐かしむためではなく、未来を面白がるための道具に見えてくる。部屋をつくるとは、その人の生きる姿勢を、かたちにすること。言葉を壁にとめた瞬間、この書斎に、確かに血が通った。思考が煮詰まれば、テラスへ出ればいい。空を見上げ、深呼吸をする。「老後はない」という言葉の先には、どこまでも続く青空が広がっている。ここにあるのは、終わりのない物語と、今日を愛おしむための、豊かな時間。