暦は三月半ば。春の光が、日を追うごとにその輪郭をはっきりとさせていく。そんな季節に思い出すのは、別府で手がけた建設会社の新社屋の空間づくりのことだ。仕事は、内装のフルコーディネートと照明計画。使える素材は、主に量産クロスを中心とした限られたパレットだった。けれど制限があることは、不自由ではない。むしろ、その枠の中でどんな情緒をつくれるか。静かな知恵比べのような時間でもある。テーブルいっぱいに広げたサンプルの中から、企業の誠実さを感じさせるシックなグレーや、落ち着いたブラウンを選んでいく。そこに、ひとしずくだけ生命の色を置く。企業カラーのグリーンだ。若葉のような萌葱色が、静かな空間の中に軽やかなリズムをつくってくれる。照明もまた、空間の印象を決める大切な要素になる。エントランスホール壁面や天井には木製ルーバーを等間隔に並べて長さにリズムをつけた。その隙間からこぼれる細い光が、空間に凛とした線を描く。一方で、天井から吊るした真珠のような丸い灯りは、オフィスにやわらかな温度を添えてくれる。応接室のソファには、い草を使ったものを選んだ。新しいい草の、あの青々とした清々しい香り。少し緊張して訪れる人の肩の力が、その自然の呼吸に触れて、ふっと抜けるような空間にしたかった。ロビーの壁には、桜が浮かぶ、澄んだ青のアートを三枚。唐長さんに依頼した、トトブルーの唐紙だ。鮮やかでありながら、どこまでも澄んだ青。その静かな深みの中に、桜の紋様が舞っている。今回この紋様を選んだのには、もうひとつ理由がある。桜という名は、「サ(生命の力)」が「クラ(宿る場所)」に現れる、そんな意味を持つとも伝えられている。生命の力が現れ、宿る場所。この社屋が、人が集い、仕事が実り、会社が静かに繁栄していく場となるように。そんな願いを、この桜にそっと託した。赤いレーザーの光で水平を確かめながら、最後の一点を掛けた瞬間、空間のピースが静かに揃った。真新しい社屋に、これからどんな時間が重なっていくのだろう。笑い声や、真剣な打ち合わせの声。訪れる人たちの気配。春の風に揺れるい草の香りを思い浮かべながら、静かにその門出を祝った。空間が整うと、人の振る舞いもまた整っていく。オフィス空間にも、品性を。量産壁紙でも空間の品性を整える、三つのポイント今回の社屋では、主に量産壁紙を使いながら空間を整えた。その際に意識したのは、次の三つだった。・色数を増やしすぎないこと・微妙な色の差を大切にすること・企業カラーを一点だけ効かせること特別な素材でなくても、色が調和すると、空間は静かに品性を帯びてくる。大分市でオーダーカーテンとインテリアコーディネートをご提案しているアルティマ工房です。住環境を整える視点から、光や動線を大切にした住まいづくりをお手伝いしています。別府市など近隣エリアにも対応しています。