和箪笥の小さな引き出し。母から受け継いだ古道具の取手が、ふいに外れそうになる。ビスは昔ながらのマイナス。経年のせいか、穴がゆるみ、空回りしている。さて、どうしたものか。目についたサランラップを細く巻きつけてみる。けれど力が入らず、くるくると回るだけ。そこで思い出す。書道稽古で使う、手すき紙のこと。やわらかく、繊細で、羽衣のような紙。こよりのようにキッチリ巻きつけ、ゆっくりねじ込んでいく。奥で馴染みあう合う感触。まるで和箪笥が小さく息をついたように、静かに収まった。糊もボンドもいらない。古いものと紙と、自分の手だけで治せた事に、胸の奥がひらく。私はこういう小さな救助作業に、大きなよろこびを覚えるのだと思う。そして、今回のひらめきをくれたのは、日頃お世話になっている別府・風蘭先生の書道稽古。手すき紙のやわらかさ、その気配に触れていると、紙にも道具にも、ひいては自分自身にも、自然と丁寧に向き合えるようになる不思議がある。風蘭先生の筆運びは、繊細でしなやかな筆先だけでなく、全身で舞うような流れや勢いがある。そのリズムにそっと同乗させてもらっているような心地がある。紙と墨字がそこにあるだけで、心の奥が静かに整っていく。私はずっと、自分の文字を好きになれないままだった。袋の表書きもイメージ通りではない。書道との縁があれば真っ先に習いたいと願っていた。別府のカフェで、感度の高いポチ袋を見つけた日のこと。胸の奥がきらめき、そのまま迷わず連絡を入れた。長年の念願が、あの瞬間に叶ったのだと思う。静かで凛とした空気の中、文字と向き合う時間。墨をすり、手すきの紙に筆を運ぶ。たったそれだけの行いが、暮らしの中の静かな愉しみへと変わっていく。心を自由にしてくれる嗜み。暮らしの中に、よろこびや、そっと訪れる気づきがあれば、毎日はゆっくりと、やわらかく調っていく。