アトリエの和空間を完成させる最後のピースとして選んだのは、四百年近くの時を繋いできた京の『唐長』の唐紙(からかみ)だった。打ち合わせのために京都へ向かったあの日、別府は大雪に見舞われていた。車窓を流れる真っ白な雪景色を縫うようにしての、京都入り。外の世界の「白」に導かれるようにして辿り着いた先で待っていたのは、白地の雲母(きら)が放つ、もうひとつの幻想的な光の世界だった。アトリエに迎えた襖紙は、葵(あおい)の紋様。制作してくださったのは、唐紙師の千田長右衛門氏(当時はトトアキヒコ氏)。彼の手から生まれた作品に、一通のメッセージが添えられていた。「唐紙をつうじて、心がおだやかであること、世界が平和であることを祈ります」その祈りが、雲母の柔らかな輝きとなって、今、私のアトリエの壁に宿っている。京都では、リーガロイヤルホテル京都にある雲母唐長のコンセプトルーム「銀月」に宿泊した。実際にその空間に身を置き、眠り、目覚める。移ろう光の中で、唐紙がどのように息づき、空間の温度を変えていくのか。その魔法のような変容を事前にじっくりと肌に覚えさせておくことは、私にとって欠かせないプロセスだった。翌日訪ねた京都・嵯峨にある唐長本店のオーダーサロンでの打ち合わせは、まさに至福の時間だった。今回の訪問は、仕事としてのアート制作の依頼が主であったため、話は終始、静かに、順序よく進められた。千田氏の所作、言葉選び、そして一つ一つの紋様に込められた歴史。丁寧かつ繊細な対話を重ねるなかで、襖紙という枠を超え、アート表現へと昇華していく——その創作藝術の極みを、間近で目の当たりにした。建物、空間、漂う香り、光……。なにもかもに魅了され、その空気感そのものを肌で感じられたことは、住まいに関わる者として、これ以上ない仕事冥利に尽きる体験だった。今、私のアトリエの和襖は窓からの光を捉えて、葵の紋様が浮き上がり、あるいは静かに沈んでいく。住まいを整えるということは、作り手の祈りや、その地で育まれた文化の香りを、自分の日常へと招き入れることなのだ。この空間に佇むとき、私はいつも、京都での静謐な空気を思い出す。足元には七島藺の大地、そして目の前には雲母の光。そして、その傍らには「KAKE-RA(かけら)」と名付けられた小さな作品を。そこに宿るのは、「トトブルー」と呼ばれる、深く、どこまでも澄んだ青。あの日、京都で受け取った祈りのエッセンスが、この小さな青い欠片に凝縮されている。住まいを整えるということは、作り手の祈りや、その地で育まれた文化の香りを、自分の日常へと招き入れることなのだ。葵の紋様と、トトブルーに込められた祈りを、私なりの形に変えて。今日出会う誰かの暮らしへと、その穏やかな光をそっと繋いでいこうと思う。