カンボジアを旅したのは、もう何年も前のこと。けれど、あのとき見た景色や、出会った人たちのことは、今も鮮明に残っている。アンコールワット。市場でシェフと買い出しをしてからの料理教室。自転車で近隣サイクリング。民家も拝見できて、そこに暮らすおじさんは、虫歯で、すべての歯が細くなっていた。けっこう衝撃的だったけれど、屈託ない満面の笑顔は、とても、幸せそうだった。足を伸ばして訪問した孤児院では、年齢違う子どもたちがひとつの輪になって遊んでいた。白い蓮の花。朝日に照らされる水辺。鳥たちの声。生きものたちの歓び。どれも忘れられない。宿泊したのは、Zannier Phum Baitang Cambodia田園に囲まれた静かな場所だった。稲が育ち、人が働き、風が吹く。敷地の中は自転車で移動できて、ゆっくりと流れる時間に身を任せた。そこには、自然を尊び、手をかけ、愛情を注いで育てられた土地の力があった。今回、コテージの客室に選んだ窓辺の布も、あのとき、この場所で触れた布の記憶と、どこかでつながっている。楽園とは、どこかにある憧れの地のようだが、人の手で育てられるものなのかもしれない。旅先で出会う景色や体験は、その場で終わらない。心に残り、暮らしの中で、少しずつ芽を出す。旅で受け取った感動は、暮らしへのタネになる。育てる喜びを知ること。そして、帰りたくなる場所を、日々の暮らしの中につくること。家庭は、誰でもつくれる、いちばん身近なふるさとなのだと思う。