先日の書の稽古で、二月に開催される個展の案内ハガキをいただいた。手に取った瞬間、そこに記された「自分の名前」にときめいた。風蘭先生の手によって、こうも美しく、凛と書かれている姿。墨量や運筆の呼吸を洋紙がそのまま写し出し、なんとも言えない情感を醸し出している。とりわけ「月」という文字の濃淡。色が重なり、深みのある陰影が落ちるその一画は、まるで夜の静寂をそのまま閉じ込めたかのようで、みなれた名前に、ただただ、うっとりと見惚れてしまう。会場は、大分市今津留にある「CAFE GALLERY タピエス」。その名を目にしたとき、私の記憶はふたたび、あの「牡丹」へと繋がった。花人・川瀬敏郎先生の花に魅了されたのは、二十代の会社員時代のこと。きっかけは、一輪の牡丹と、当時たまたま目にしたBS番組だった。画面に映し出されたのは、川瀬先生のご自宅の室礼。空間と呼吸を合わせるように、李朝の美を宿す椅子がそこに在る。花の世界観と完全に一致するその佇まいに、魅了された。同じ頃、芸術新潮での連載頁は、デスクでも自在に感性をリセットできる格別なものだった。とりわけ心を奪われたのが、牡丹の記録である。咲き誇る絶頂の華やぎを経て、そこから三年後に至るまでの「枯れゆく姿」を丹念に追い続けた写真。朽ち、力を失いながらも、なお気品を保ち、幾重にも重なり合う花びら。それはまるで、豪奢なドレスを纏っているかのようであった。たしかに美しい。当時の私は、すっかり心を奪われてしまったのだ。時を経て、私はタピエスという場所で、一冊の本と再会する。店内に置かれていた『今様花伝書』。頁を捲るうちに、あの日牡丹に受けた衝撃が蘇り、ふと「先生のお稽古を、今なら受けられる」という衝動に駆られた。導かれるように調べてみると、驚くことにちょうど募集が始まったばかりのタイミング。そこから一年間、東京への稽古通いが始まった。川瀬先生から学んだのは、生け花の技法だけではない。見えない領域を尊ぶ姿勢。花への圧倒的な慈しみ。道具のひとつひとつに敬意を示し、清め、管理する美学。それらは今も、私の内側にある大切な基盤となっている。かつて私が光を授かったこの場所で、今度は風蘭先生の個展が開催される。まわりてめぐる、縁の交差。掌に乗るほどの「あおいすみの標」の中に、かつての私が牡丹に見出した命の陰影が静かに重なる。立春を迎える二月。出逢いの場所であるタピエスさんで、あおいすみが刻む「こよみ」の結晶を眺められることを、心より楽しみにしている。風蘭 solo exhibition「あおいすみのこよみ」2026.2.14 sat - 16 mon10:30 - 17:00at CAFE GALLERY Tapies(タピエス)