玄関先の鉢植えのクリスマスローズが、静かに花を咲かせている。うつむき加減に、控えめに咲くその姿。決して派手ではないけれど、淡く透き通るような緑がかった白い花びらには、冷たい冬の空気を越えてきた、確かな芯の強さが宿っている。3月も下旬。風は少しずつ柔らかくなり、光の春から、確かな温度の春へと移り変わる季節。そういえば、春真っ盛りに満開を迎えるのに、どうして「クリスマスローズ」という名前なのだろう。ずっと不思議に思っていたのだけれど、調べてみて腑に落ちた。本来、ヨーロッパなどで「クリスマスローズ」と呼ばれていた原種は、その名の通り、冬のクリスマスの頃に白い花を咲かせるらしい。けれど、いま目の前で春を謳歌しているこの花たちは、正確には春の時期に咲くことから「レンテンローズ(春のバラ)」と呼ばれる品種なのだとか。日本ではいつの頃からか、これらをすべてひっくるめて「クリスマスローズ」と呼ぶようになったそうだ。そう思うと、うつむき加減の静かな姿が、より一層、春のあたたかな光に似合っているように見えてきた。人間が勝手につけた名前のズレなんて気にも留めず、誰と比べることもなく、ただ自分の季節が来たら淡々と咲く。その静かな営みに触れると、いつの間にか少し急ぎ足になっていた自分の呼吸も、ふっと深さを取り戻し、穏やかに調っていくのがわかる。家を出るときも、帰ってきたときも。うつむく花を下からそっと覗き込むと、なんだか無言でやさしく微笑んでくれている気がして、暮らしのオンとオフが、そっと切り替わる。「今日も、自分のペースで」心の中でそんなふうに声をかけて、玄関を開ける。ささやかで美しい、春の朝の句読点。