冬の晴れた日は、陽の当たるこじんまりとした広縁でPC仕事をするのが日課だ。食後の一杯、野草茶を淹れてこの場所に腰を下ろすと、レースを通した光が、壁やクッションを優しく撫でているのが見える。一月十日。今日、この陽だまりの中で開いたのは、皆川明さんの『Letter』。京都の旅の途中で立ち寄った、ミナ ペルホネン。大正時代に建てられた寿ビルディングの、あの重厚で静かな階段が各フロアをつなげている。そこで私は、この赤い布製の本と出会った。皆川さんの紡ぐ言葉の粒は、いつからか私にとって、仕事や生き方の指針――宝物のような支えになっている。「よい記憶をつくる」という皆川さんの哲学。ミナ ペルホネンでは、オリジナルの生地を1から作り上げ、はぎれの一片に至るまでを大切に使い切る。その精神の根底には、皆川さんが若き日に魚市場での経験から体得した「素材を無下(むげ)にしない」という、命への深い敬意がある。京都の店舗は、どこを切り取ってもその「喜び」という波紋に満ちていた。特に試着室に入ったときの感動は、今も忘れられない。扉の質感、引手の愛らしさ、壁に装飾されたマクラメレース──細やかな配慮と、慈しみが満ちたその空間は、あまりにも愛おしく、ただそこに身を置くだけで気持ちが弾み、嬉しさの叫びが内側でこだました。こうした細部に宿る「喜び」が幾重にも重なり、訪れる人の心に、やがて「よい記憶」として刻まれていくのだ。住まいを整え、暮らしをオーガナイズする私の仕事。効率だけを追い求めるのではなく、その空間で過ごす時間が、かけがえのない思い出へと変わっていくための舞台を整えること。仕事で創りあげるのは、よい記憶。ただ整った部屋ではなく、そこにある光や手触りが、ふとした瞬間に心を満たし、何年経っても「日々、幸せだ」と感じる、そんな心の器を創りあげていきたい。広縁を照らす冬の光の中で、今日という一頁をめくる。先のことを案じすぎず、今この手の中にある「時間」と「言葉」を丁寧に慈しむこと。皆川さんの言葉の滋養を胸に。今日出会う誰かの人生に、温かな「よい記憶」をひとつずつ編み込んでいく。そんな思いで、再びキーボードに指を置いた。