2019年、北海道冬旅で出会ったのは、モノが圧倒的に多くても隅々まで愛情が注がれ、整然と美しい空間だった。この旅は、ドラマチックな幕開けから始まった。一面の白銀世界。バスが雪に埋まり、みんなで外に出て、冷たい風の中で車体を押す。そんな貴重で、どこか温かいハプニングだった。その先に待っていたのは、フィン・ユールをはじめとするコレクションで名高い椅子研究家の自邸である。目にしたのは、まさに「断捨離」とは真逆の世界。モノの量にあわせて、空間は見事にバランスがとれている。引き出しや棚は整理され、情報もすべて記録され、掃除や手入れも行き届く。先生は、ただモノを集めているわけではなかった。美しいと感じるものだけを選び抜き、ひとつひとつ丁寧に管理し、大きな愛で空間全体を満たしていた。「モノが多くても空間は美しくなる」ひとつのモノも忘れられず、満遍なく心が行き届いていることに、胸を打たれた。そこにあったのは、審美眼に裏打ちされた、愛ある管理だった。そこでは、引き算などない。在ることへの価値のみで場が満たされている。一つひとつに居場所を与え、光をあてることで、調和のとれた空間美が生まれるのだ。いま行っている空間再生でも、まずは潔く情報整理を進めている。減らすことのほうが、実は気力も体力も要する。そのうえで、自分の感覚で見極めたモノたちに、ひとつひとつ丁寧に向き合い、手入れを行う。この指針は、北海道で見た、あの記憶に基づくものだ。北海道の家は、廊下まであたたかく、窓の外の厳しい冬景色と、家の中の満たされた空気との対比が印象的だった。そして大寒のいま、あの冬に触れた「モノを美しく保つ極意」と「空間全体の調和」は、いまの空間再生プロジェクトの、大切な指標のひとつになっている。あの冬の北海道を辿る、三つの物語。[ Chapter 1 ] [ Chapter 2 ] [ Chapter 3 ]―― Blossom Magazine Archive より