水回りで身を清め、階段を上がる。扉を開けると、そこには書斎とは異なる、やわらかな時間が流れている。まず目に入るのは、壁の向こうへ手を伸ばす、黒猫のシルエット。星をつかもうとしているのか、それとも、まだ見ぬ世界に触れようとしているのか。そういえば、書斎のデスクで言葉を留めていたのも、黒猫だった。あちらが静かな思索の番人だとしたら、こちらの猫は、夢を追いかける遊び仲間だろう。この家の二階には、そんなふうに、愛猫の気配がそっと散りばめられている。子供室のしつらえで大切にしたのは、甘くなりすぎない、色のバランス。壁面のスモーキーなブルーグレーは、知性と落ち着きを。カーテンや椅子に配したペールピンクは、やさしさと体温を。相反する二つの色が、互いを引き立て合いながら、成長途中の、繊細な心を包み込む。デスクに向かえば、ここにも猫がいる。縞模様のペン立て。家のかたちをした時計。ノートの脇の「To Do リスト」には、今日の宿題か、それとも、ひみつの計画が並ぶのだろうか。ベッドの上には、洗濯物が風に揺れる刺繍のクッション。それは、家事室で感じた「日常を愛しむ心」が、この部屋にも静かに受け継がれている証だ。子供室は、ただ眠り、学ぶための場所ではない。お気に入りの色と、小さな相棒の気配に守られながら、自分だけの物語を空想する、アトリエなのだ。壁の猫が星に手を伸ばすように。ここからなら、どんな夢でも描いていける。